恋愛対象1歩前(ちあのだ)
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毎度のことながら朝飯をたかりに来たのだめに仕方なく食事を与える俺。
少し顔が赤いしぼーっとしてるとは思ったが、元気だしよく食うからあまり気にせずにいて。
だが、皿洗いをしていると突然のだめが俺の服を引っ張ってきた。


「…先輩?」
「何だ?」
「…体温計ありマス?」
「体温計?」
「…なんか頭熱いんデス…」
「ちょっと来い。」
「…ムキャ?」


突飛な発言に驚いたが、まさかと思い、手を拭き少し屈んで額をくっつければ、予想通り熱い額。
人が真面目に心配してやってんのに、のだめの奴は大声で奇声をあげて更に顔を赤くして。


「先輩!もう1回やってくだサイ!!」
「病人はおとなしくしてろ!今体温計持ってくるからちょっと待ってろ。あと、今日は学校休めよ。」
「…休めませんヨ。今日の講義受けないと単位が…」
「はぁ…。薬も持ってくるから座ってろ。」


バカは風邪ひかないっていうけど絶対に嘘だ。
そんなこと言ったのはどこのどいつなんだ?

と、その後嫌がるのだめに無理矢理薬を飲ませると仕方なく大学まで送り届けた。





*****





「はぁ…」


今日は珍しく受ける講義もなければレッスンもない。
取り合えず勉強でもといいたいところだが、のだめの奴をどうするか。

ってなんでこんなことしてやってるのか、俺は。
よく考えてみれば本当に世話好きおばさんのような行動だよな。
よし。いい加減世話やくのはやめだ。
自分でひいた風邪くらい自分でなんとかするだろ。


とは言ったもののやっぱり気になってしまう悲しい性分。
勉強がなかなか頭に入っていかないし全然集中できない。

俺って最近有言不実行派になりつつあるよな。
のだめと会ってから完璧有言実行派が崩れてきている気がするのは気のせいか?



「峰!」
「お〜千秋!」


お昼が近いからと食堂へと足を運び周りを見渡すものだめの姿はない。
変わりといってはなんだが、相変わらず目立つ金髪を見つけて声をかける。


「のだめの奴見なかったか?」
「そういえばさっき講義で見てからは見てないな〜。のだめに何か用か?」
「いや、あいつ朝熱あったからちょっと気になって。」
「そういや何か元気なかったけど、熱あったのか!」
「まあ軽い風邪だろうから平気だろ。じゃあまたな。」
「千秋、ちょっと待て!」


話しが長くなりそうだから無理矢理行こうとすると、腕を掴んでくる峰。
俺は早くのだめを連れ帰って勉強がしたいんだけど。


「俺も行く!」
「は?」
「だから俺も一緒にのだめ探すって!」
「…好きにしろ。」


適当に言葉を返すとピアノのレッスン室へと足を運ぶ。


「千秋ってさ〜実はのだめのこと好きなんだろ?」
「はあ?!」
「だって普通好きじゃない奴迎えに行ったりしないだろ!」
「俺はただ朝から頼ってくるから気になってるだけだ!」
「本当千秋ってそういうとこ鈍感だよな〜。」
「…この音…」


と会話をしていると聞こえてくるのは荒々しいショパンの音色。

ショパン12の練習曲作品10-12
革命のエチュードハ短調

荒々しくて高雅な原曲とは違った音色。
どこまでも力強く荒削りなその響きは俺の心を魅了してやまない。
しかし、聞き入っていると突然音が変わる。
苦しそうな音色にはっとし、音を紡ぎだしているであろう部屋の扉を勢いよく開けると、そこには予想通りの姿。


「のだめ!」
「…むきゃ…?あへ〜千秋先輩〜…」
「お前熱あんのに何やってんだ!」
「…大丈夫デス!…のだめ…熱には強いんで…」
「熱に強いも弱いもあるか!」


バカは風邪ひかないじゃなくて、バカは風邪に気付かないのか?
と、疑問に思いながらも上着を脱いでのだめへと着せる。


「…ふぉ〜!…千秋先輩の匂い…」
「嗅ぐな!ったく…お前熱あがったろ…」


額に手をあてれば朝より格段に熱い。
いくら薬飲んだって、普通こんな激しいピアノ弾けば当然だ。
それぐらい分からないのか、こいつは。


「先輩!のだめ…朝のおでこで熱はかるのがいいデス…!」
「うるせぇ!朝は洗いものして手が冷たかったからやったんだ!」
「うきゅ〜…先輩のケチ…」
「誰がケチだ!人がせっかく心配してやってんのにふざけんな!」
「…心配…?のだめのこと…心配してくれたんデスか…?」
「は…?」


俺、今何て言った?
俺がのだめを心配してる?
いや、違う!それは断じてありえない!
朝から付きまとってくるから気になってただけで…


「…千秋…なにやら考え中のとこ悪いけど、のだめが…」
「え?」


そういえば峰も一緒に来てたこと忘れてたな。
と、前に目を戻せばピアノに突っ伏すのだめ。


「のだめ?!」
「…う〜…」
「はぁ…仕方ねぇ…」




「千秋ってさ〜やっぱりのだめのこと好きだろ。」
「断じて違う!」
「好きじゃなきゃ普通おでこで熱はかったり、上着着せたり、おんぶしたりなんかしないだろ!」
「俺はこいつの保護者みたいなものだ!恋愛感情なんてあるわけねぇ!」


峰の言葉に反論し、ずり落ちそうになる背中ののだめを背負いなおすと、また何やら反論が。
何故そこまでつっかかるんだ。


「じゃあ聞くけどさ、もし俺が風邪ひいてたら、お前のだめと同じことするか?」
「………しない………」
「だろ?!なんか違う意味で納得いかないけど…」
「でもそれは、仮にも女と男の違いだろ!」
「いやどうだか?お前は他の女にそんなことするか?」


それとこれとは別だろ。
もうわけわかんねぇ。
俺がのだめを好き?
そんなことあるはずがない。
あるはずがないんだ!

「まあのだめのこと、あんまり邪険にするなよな?じゃあな!」


とわけのわからない言葉を残して、去っていく峰。
意味がわからないやつだ。


「ん〜……千秋先輩?」
「起きたのか。何だ?」
「……アイス食べたいデス……」
「お前風邪の時くらい食欲不振になれよ…」
「…む〜…」
「…わかった。後で買いにいくから。」
「うきゅ…先輩の手作りがいいデス…」
「調子に乗るな!」


やっぱり、こんな無神経な変態女を好きになるはずがない。
まあ確かにのだめのピアノは好きだし、なんだかんだ言って助けられてる部分とかもある。
だけどそれは恋愛感情とは別物で。
保護者っていうか世話のやける妹みたいな感情だろう。
だから心配しても普通なんだ、きっと!
よし。少しすっきりした。


「のだめ、アイスの他に何なら食べれる?」
「うきゅ…?…う〜ん…ミルクがゆが食べたいデス!」
「わかった。」
「ぎゃぼ…先輩が優しい…」
「今日だけだぞ!」
「…じゃあ風邪治らない方がいいデスネ…」
「どうして?」
「…だって…そうしたら毎日先輩が優しいデショ?」


その言葉に一瞬固まる。
少し、本当に少しだけどときめいた。
しかし、変態なところがなければ恋愛対象に入らなくもないが、こんな変態ありえるか!

まあでも頼られているのっていいものなのかもな。
今日くらいは我が儘全部聞いてやる。
あくまで、先輩としてな。


「ちゃんとつかまってろよ。」
「ハイ!」



END
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